税理士や公認会計士のような士業でなくても、IT監査人は独立して稼ぐことのできる職種です。
基本的には、監査法人勤務やコンサル勤務の方が多く、独立しているIT監査人はあまり多いとは言えませんが、私の周りにも実際に存在しており、独立開業として成り立つ職業なので是非紹介したいと思います。
実はIT監査の要請は年々が高まっており、私の知る限り、経験のあるIT監査人は監査法人から高い需要があります。
IT監査をできる人が少ないにもかかわらず、監査実務の現場で足りていないのです。
ただ、独立開業はサラリーマンと違って、全て自己責任の世界なので、しっかりと仕事ができ、コミュニケーションが取れることが前提となりますので、そのあたりのことも深掘り致します。
最後に、現実には独立しているIT監査人がそれほど多くはないので、そのあたりは以下の章で背景や理由を考察します。
■ 独立したIT監査人の業務
独立しているIT監査人の主な業務は以下の通りです。
- 監査法人の財務諸表監査の一環のIT監査(外部協力者として受託契約)
- 上場準備(IPO)企業等の内部統制コンサルティング(経営者評価支援、内部監査支援)
- ベンチャー企業や上場準備(IPO)企業の社外監査役
- その他、各人の経験や能力に応じたIT監査関連のビジネス
補足します。
□ ❶について
中小の監査法人は、IT監査人の確保に悩んでいます。経験豊富なIT監査人は、そうした中小監査法人からの業務委託の需要があります。
IT監査の実務についてはこちらの記事をご参照ください。
□ ❷について
経験豊富なIT監査人が、上場準備(IPO)企業や、比較的規模の小さい上場企業のIT統制のコンサルを行ったり、経営者評価支援を行ったりすることがあります。
大企業に対しては、監査法人のコンサル部隊が入り込むことが多いため、個人としての受託契約は難しいと考えます。
一方で、監査法人のアドバイザリー部門と受託契約した上で、関与することは考えられます。
□ ❸について
IT統制、システム監査含め、ITガバナンス領域全般に明るいタイプは、ベンチャー企業や上場準備(IPO)企業の社外監査役として契約することがあります。
(会社のマネジメントに関わるCIO/CTOとして、会社の内部に入ることも多い印象です。)
□ ❹について
監査法人でIT監査人であるような人は、大概、監査法人に入る前に、IT関連のバックグランドを持ち、それぞれに経験を積んでいることがほとんどです。
そうした、バックグランドとIT監査の経験をミックスさせて、様々なビジネスの展開の仕方があるでしょう。
■ 独立したIT監査人に求められる能力と対策
独立したら、全て自分で仕事の管理をするので、サラリーマンとは異なる能力が求められます。
- 営業力
- 人脈
- 専門知識の独自キャッチアップ
1つずつ説明します。
❶営業力
サラリーマンと違い、自分で仕事を獲得する能力、あるいは収入を作る力が求められます。
具体的には、以下の力になるでしょう。
・クライアントを獲得する力
・報酬交渉を納得のいく形で契約できる力
・クライアントへのサービス内容を提案する力
これら全てアレンジしていく能力が、独立における最大の要求事項です。
□営業力の獲得のためにすること
これには以下の二つの視点があると思っています。
- 現在の仕事環境から営業力を獲得する方法
- 一人で営業をかける方法
1.については、
次に紹介する「②人脈」とほぼ同じ内容になるので、そちらをご参考ください。
2.については、
自ら能動的に、アプローチをかけていく方法です。
例えば、監査法人や企業サイトの求人からIT監査に関する非常勤の募集に応募することです。
自らHPやSNSで専門情報を発信し、集客することも効果的でしょう。
また、独立すると、自らの報酬は自ら決定することが必要です。
自分自身の標準的なサービスごとの「報酬テーブル」をクライアントに見せれるように準備しておくことが大事です。
クライアント候補とのちょっとした会話から仕事が舞いこむことがあります。
「いくらでやってくれますか?」という問いに対して、即答できなければ、その場で話は立ち消えてしまったり、一方的に不利な金額で受注することになりかねません。
独立すると、監査法人や会社が当たり前に持っていたこのような仕組みを自ら整える必要があります。
❷人脈
営業力と大きく関係しますが、人脈があった方が圧倒的に仕事を得る上で有利です。
監査法人の元同僚であったり、クライアントであったり、様々ですが、そのような人脈は独立する前に持っておくと良いことが多いです。
人脈があれば、あらたに新規でクライアントを獲得する必要性が少なくなり、監査法人の同僚からそのまま仕事を受注できたり、既存のクライアントからも紹介を受けたりすることができます。
独立すると、働かなければ無収入なので、人脈がある方が圧倒的に、収入を得やすいです。
□人脈の獲得のためにすること
それには、やはり、自分が現在やっている仕事で信頼を得ること。
これが、非常に重要な要素です。
人脈というと少し大げさですが、監査法人などの勤務時代に、仕事で信頼関係ができていれば、自ずと「あなたに仕事をしてほしい」と言われるようになります。
そういう小さな関係性を大切にしておくべきです。
❸専門知識の独自キャッチアップ
独立すると、組織であれば自動的に触れられていたであろう情報の供給が断たれます。
したがって、積極的に、自らトレンドを理解し、情報や、技術を取りに行く必要があります。
特にIT監査では、IT技術の進歩は早いので、生き残る上で大切な要素です。
□専門知識の獲得のためにすること
・CISAを取得している場合やISACAの会員の場合には、様々な講座が開催されるので、参加する。
・技術のインプット(市販の講座や書籍)と、可能な限り自ら実践すること。
■独立しているIT監査人の事例
私の知人の事例をご紹介する前に、独立しているIT監査人には、明確な特徴があるので、まずはその点を紹介します。
- 基本的には、中小の監査法人と、IT監査の外部協力者として受託契約を結ぶことが多い
(大手監査法人との受託契約は、あまり多くはない印象ですが、ゼロではないと思います。) - 仕事の獲得は、監査法人時代の人間関係から派生することが多い。
- 勤め先の監査法人との雇用契約を終了して、受託契約に切り替えることがある。
- 上場企業のIT監査チームのリーダーとして、一通りのことを一人で完遂できる経験を持つ(たいていマネージャー職以上)
□ 知人の実例
代表的な実例を知人を例に紹介します。この方のパターンがオーソドックスではないかと思います。
・監査法人トーマツでマネージャー
・上場企業のIT監査のリーダーポジション(主任)で多数のクライアントを担当
・退職した後、監査法人の同僚や上司のつてで業務委託を請け負う
■ 現実には独立しているIT監査人がそれほど多くない理由
独立開業が可能な職種であるにもかかわらず、それほど独立IT監査人が多くない背景を、私なりの視点で考察します。
①組織に所属する意識が強いケース
監査法人などの組織においては、人によっては、IT監査業務に慣れてくると、ルーティーン化しやすい場合があります。
組織に所属しながらルーティーン化した業務を長く続けてきた人は、社会保険料の支払いや、営業を自ら率先しなくても仕事がある状況では、そのまま惰性で組織で勤める方が向いていることが多いです。
そのため、あえて監査法人から離れるというリスクを冒す人は、少ないのだと考察します。
ただし、補足しておくと、
IT監査には、企業の新しいIT環境の技術や、リスクに対して適切な内部統制の評価をできる能力が求められます。
このようなルーティーン化しないようなタイプの仕事も多くあり、人によってはそのような仕事を多く担当している場合もあります。
②組織内で一定の評価と立ち位置を得られている
結局一つ目と関連しますが、組織内で長く評価を得てきた人は、あえて組織から出ようとする人は少ないかと思います。
どちらかというと、組織内で立ち回ることよりも、ワークライフに自由をもとめ、自分の努力によって報酬をもっと上げたい人が独立を目指すのだと思います。
■ まとめ
独立して個人で働きたいと思っている人にとって、IT監査人は悪くない選択肢だと思います。
ただし、CISAやシステム監査技術者を取得したからといって、すぐさまそれで稼げるようになるわけではありません。
IT監査(システム監査)の実務経験を積む必要が必ずあります。
そして、以前から紹介している通り、その最初の環境としては大手監査法人が最適ではないかと考えています。
これについては、以下の記事を合わせてご参照ください。
以上、仕事の自由やワークライフを、独立開業の立場から享受したい人は、ぜひ参考にしてみてください。