会計士試験の入門期や基礎期にある方が、論文の最終合格までのロードマップを考えたとき、全体としてどのような戦略をとればよいのか、について書いていきたいと思います。
今回は、おそらく初学者に多いだろう悩み、
「初期は短答科目にだけに集中すべきか」
「できるだけ早く合格したいが、短答に特化してしまって大丈夫か」
「論文も見据えた対策を最初からやるべきか」
「短答に特化しているが、その後の論文に太刀打ちできるか不安」
といったことにフォーカスしつつ、私自身の経験をもとに、短答から論文に至るまでの全体的な最適な戦略について考察しました。
入門期からの全体的な戦略を考えたとき、次の2点を考える必要があります。
・科目ごとの戦略
それぞれの視点から書いていきたいと思います。
2014年度に公認会計士試験に合格したときの成績表と勉強法まとめは、こちらからどうぞ。
結論:短答と論文の戦略まとめ
まず、短答と論文の難易度を考えると、相対的に短答の方が論文よりもハードルが高い試験となっています。
つまり、短答合格者が論文に合格するレベルに引きあげるよりも、試験勉強を始めた人が短答合格をする方が圧倒的に時間がかかります。
それくらい、短答式は突破が難しい試験で、論文試験の事を気にして、片手間でやって受かる試験では、残念ながらありません。
一方で、そもそも短答対策をしっかりと行っていれば、論文に向けた基礎力は十二分につくという側面もあります。
戦略は迷いなく、短答の問題を解けるようになる力を最短でつけるということに、フォーカスすることです。
興味本位で、論文試験を見ても構いませんが、論文試験の対策は全く意識する必要はありません。
これが、最も効率よく会計士試験を制するのに効率の良い方法と、私は結論付けています。
短答対策と論文対策の違いについて
会計士試験の突破の鍵は、一にも二にも短答突破がカギである、ということについて書いたところで、そもそも短答と論文で求められる力の違いを、以下の2つにまとめておきます。
2.結論の背景や趣旨に対する理解の深さ
1.知識のアウトプット(解答方法)
知識の使い方、解答方法について、短答と論文では大きく異なります。
特に理論科目ではこれが顕著で、逆に計算科目はほとんど違いはありません。
理論科目については、短答では受動的な試験で、論文は能動的な試験になっています。
論文では持っている知識を、問われている質問に対して、自ら必要な知識をアウトプットし、それらを構成していく力が求められます。
2.結論の背景や趣旨に対する理解の深さ
短答式に比べ、論文式の方が、計算手法や会計基準・立法のバックグランドについて深い理解を求められます。また、そこからさらに、異なる考え方を比較して、共通点や相違点を理解することも求められます。
ただし、短答だったら、こうした本質的な理解をしなくていいかと言われれば、それは違います。
表面的な解答スキルを習得して、点数だけ取れればいい、というアプローチは、短答試験でもひねった問題に対して、柔軟な対応をとれなくなったり、あるいは論文試験にむけた大きな負債となります。
ここで、時々、論文の方が本質的なことを問われるため、「大は小を兼ねる」ように「論文が短答を兼ねる」から、同時に対策をすべきと言われる方も、中にはいらっしゃるようです。
確かに、論文式の方が、本質的な理解を問う問題に対して、知識をうまく構成して答案を書くことが求められます。
そのため、論文試験の問題に触れてみることで、理解が深まり、短答対策にも良い影響があるというのは一理あります。
しかしながら、それでもなお、時間のない中で論文の対策を兼ねながら勉強を進めるというのは、短答だけでも膨大な勉強量の前には、全体的に非効率であるため、シンプルに短答だけを意識した学習だけを見据えるべきだと考えます。
本質を理解しなければいけないのは短答対策でも同様です。
そのことを踏まてさえいれば、始めから短答試験で求められる力というものにシンプルにフォーカスして対策すれば、自然と論文でも太刀打ちできる力の土台は作ることができます。
以上から、論文は短答の合格後に考えればOK。十分に太刀打ちできます。
科目ごとの戦略
では、どの科目、どの分野に重点的に時間的なリソースを投下していくべきか、まとめておきます。
科目を大きく、理論科目(知識を問われる財務会計(理論)・監査論・企業法)、計算科目(財務会計(計算)、管理会計)に分類するのが良いと思います。
短答では、全体的に、理論科目よりも計算科目の方が、習得に時間のかかる重いものになっています。
ただし、かといって理論科目が簡単かというとそうでもなく、かなり細かい知識も試されるの実状です。
この兼ね合いが難しいですが、一般的にはまずは、より重い計算科目から習得していくのが効率の高い方法となります。
試験における重要性の順番に以下の通りになります。
1.財務会計論(計算):圧倒的なボリュームであるため、受験当初から短答直前期に至るまで、完成度を上げるための学習を怠ることができない。
2.管理会計論(原価計算、管理会計):財務会計論ほどのボリュームはないが、クセのある問題もかなり出題されるため、基礎力をつけるのにそれなりの時間を要する。
3.財務会計(理論):短答までは会計基準、企業会計原則の規定を記憶することが中心となる。
4.企業法、監査論:かなり細かい規定まで押さえる必要があるため、上記の合間を縫って時間を確保する必要がある。
※前提として、論文対策は短答までの各科目の完成度によって、個人ごとに変わってくるが、一般論で重要性の順に記載する。
1.財務会計論:論文では計算より理論の方に習得の時間を要する。会計基準の規定および結論の背景、会計理論を基準横断的に理解する力が必要である。(計算は短答の力を維持すればよい)
2.租税法:多くの人が短答後に開始するが、その割にボリュームがあるため、問題集や答練の習得に時間を要する。(この科目は税法科目であるため、他の科目とかなり毛色が異なり、受験生間で完成度にバラつきがでやすくなっていることに留意)
3.監査論・企業法:論文特有の知識と答案構成を習得するための練習が必要である。
4.選択科目:経営学(私自身も選びかつ最も多く受験生が選択)に関してのみ言及すれば、ファイナンスの習得が安定的得点のために必須となるため、ある程度の時間を確保する。その他の領域は他の科目の合間に時間を作って最低限を押さえるのが費用対効果が高い。(他の科目は各自ご確認ください)
短答合格後、論文試験の戦略
短答後に待ち受けてるのは、論文科目である租税法と選択科目の勉強です。
また、短答科目については、アウトプット方法を論文にフィットさせる訓練と、論文にむけて新たな知識をインプットする必要があります。そのあたりを下記の通りまとめました。
財務会計:会計基準の「結論の背景」、会計理論と仕訳を結びつける力、会計基準に横断的に共通する会計理論の理解(横ぐしで会計基準を見る)
管理会計:原価計算および管理会計の各計算手法の比較やメリット・デメリットについて
企業法:法解釈にかかる論点や判例、および独特の答案構成の練習
監査論:監査基準委員会報告書の規定のうち、より実務的な監査手続きにかかる知識、監査の利理論的背景の理解
最後に
ここまで短答と論文の戦略を考えてきましたが、ここでもう一つ大切なことを書いて結びにしたいと思います。
それは、自分の科目ごとの得手、不得手をしっかりと把握して、全体として合格最低点を上回るための戦略を徹底的に考えること、です。
個々人が、科目ごとの得手・不得手が異なり、したがって、その最適な勉強時間の配分、戦略の立て方がまったく異なってくるのです。
そのため、成績表などのデータを見ながら、自分なりの最適解を見つけることが何より重要です。
その点を踏まえて、上記の戦略を参考にしてみてください。